水滸伝訓読:第91回

〈戴宗は、河北の田虎の反乱を聞く。宋江は、田虎の討伐を願い出た。田虎は猟師に過ぎないが、宋の地方軍の腐敗につけこみ、五州五十六県を占領して、「晋王」を称した。宋江と盧俊義が、天子から任命され、討伐にゆく〉

◆燕青が、許貫忠の巻物をひらく

宋江 帳中に在り、呉用と計議するは、兵を進むるの良策。
呉用ふ、
「賊兵 久しく驕る。盧先鋒の此に去かば、必然 功を成さん。只だ一件あり、三晉の山川は險峻たり。須らく両個の頭領は、細作を做し、先づ山川の形勢を打探し、方に兵を進むべし」
道ふこと猶ほ未だ了らず、帳前に走過するは、燕青なり。稟すらく、
「軍師 費心を消〈もち〉ひざれ。山川の形勢、已に此にあり」
燕青 一軸の手巻を取り出し、桌上に展放す。

宋江 呉用とともに、頭より仔細に觀看す。三晉の山川・城池の、關隘の圖なり。凡そ何れの處 以て屯紮すべき、何れの處 以て埋伏すべき、何れの處 以て廝殺すべき、細細に都て上面に寫す。
吳用 驚きて問ふ、
「此の圖 何れの處に得るや」
燕青 宋江に道ふ、
「前日、遼を破りて師を班す。回りて雙林鎮に至り、遇ふ所の、かの姓は許、雙名は貫忠なり。他 小弟を邀へて家に到らしめ、臨別の時、此の圖もて相ひ贈る。他 説く、幾筆の醜画なりと。弟 回りて營中に到り閑坐するとき、偶々取りて展げ看る。才〈まさ〉に知る、三晉の圖なりと」

宋江道ふ、
「你 前日に回り、正に收拾して朝見するに値ふ。忙忙地にして曾て問ふこと備細たるを得ず。我 此の人を看るに、また好漢なり。你 平日にまた常に我に説く、他の好處を。他 今 何の作為〈なす〉所ぞ」
燕青道ふ、
「貫忠 博学多才たり。また武藝を好み、肝膽あり。、其の餘の小技は、琴弈・丹青、件件 都て省〈さと〉れり。因りて他 出仕するを願はず、山に居して幽に僻す」
〈燕青が許貫忠について〉相ひ敘するの言語に及びて、備細に説くこと一遍なり。
呉用道ふ、
「誠に天下に心あるの人なり」
宋江呉用 嗟嘆して稱贊して已まず。

◆盧俊義の快進撃

〈別部隊の盧俊義が、田虎に属する城を開門させると……〉

衆將 兵を領し、一齊に城に進む。黑旋風の李逵は、火剌剌なり。只顧〈ひたすら〉砍殺す。盧俊義 連〈しき〉りに叫ぶ、
「兄弟よ、百姓を殺害するを要せず」と。
李逵 方に肯へて手を住む。

◆没羽箭の張清が、伏線のために退場する

〈盧俊義が勝ち進み、つぎに攻めるべき城を、宋江呉用と相談していると……〉

當下 沒羽箭の張清あり、稟して道ふらく、
「小將 両日、感冒・風寒す。高平に暫らく住まらんと欲す。調攝して痊可し、營に赴きて用を聽かん」
宋江 便ち神醫の安道全をして、張清とともに高平に往き、療治せしむ。

 

あんまり新規性のない、戦さの話を外していくと、第九十一回は、たったこれだけになる。張清が退場するのは、とても重要なこと。冗長な戦いの描写のなかに、紛れ込ませては惜しい。

そして、殺人が好きな李逵は、いいキャラです。