宋江が36人の名簿を授かる
◆晁蓋の手紙を、閻婆惜が預かる
一日、〈晁蓋は〉宋押司の相ひ救ひたる恩義を思念し、密かに劉唐をして帯釵の一対もて、宋江に酬謝す。宋江 金釵に接し、合せず〈不覚にも〉かの娼妓たる閻婆惜に收めしむ。奈んぞ機事の密ならざる。閻婆惜 来歴を知る。
一日、宋江の父親 病を作し、人を遣りて来報す。宋江 官に告げて假を給ひ、家に帰りて親に省ふ。
路上に杜千・張岑といふ両個と撞ふ。是れ舊時の知識なり。河次に魚を捕りて生と為す。
◆宋江が索超・董平と出会う
偶々、一大漢を留む。姓は索、名は超なるものなり。彼と飲酒す。*1
又 董平の晁蓋を捕捉するとも獲ず、粗棍限棒を受くる有り。また身もて逃ぐるに在り。
恰かも宋押司 途中に相ひ会す。
是の時、索超 道ふ、
「小人 幾項の歹事〈悪事〉を做す。已むを得ずして落草す」
宋江 書を写し、この四人〈杜千・張岑・索超・董平〉に送り、梁山泊の晁蓋を尋ねしむ。
◆宋江が閻婆惜を殺し、詩を書く
宋江 家に回り、公親の病を醫治したれば、再び鄲城県の公参の勾当に往く。故人の閻婆惜に見ふに、又 呉偉と打暖し、更不彩たり。宋江 呉偉の両個を一見し、正に偎倚せんとしたれば、便ち一條の忿氣、怒髮 冠を衝き、将に一柄の刀を起して、閻婆惜・呉偉の両個を殺したり。
就ち壁上に四句の詩を写す。
詩に曰く、
閻婆惜を殺して、寰中〈天下に〉姓名を顕す
兇身を捉へんと要す者は、梁山泊上に尋ねよ*2
◆宋江が九天玄女から名簿をもらう
是の時、鄆城県の官司 知るを得て、巡檢の王成に帖し、大兵・弓手を領せしめ、宋公の荘上に去きて、宋江を捉へんとす。奈かでか宋江 已に走げ、屋後の九天玄女の廟裡に躱す。
かの王成 捕ふるとも獲ず、只だ宋江の父親もて拿す。
宋江 官兵の已に退くを見て、廟より走り出づるに、玄女娘娘に拝謝す。
則ち見る、香案上に一聲 響喨たり。一巻の文書 上に有り。宋江 展開して看るに、天書を得たり。又 三十六個の姓名を写す。又 四句を題して道ふ、詩に曰く、
国を破るは山木に因り、兵刀は水工を用ふ〈=宋江の字謎〉
一朝 将領に充てられ、海内 威風を聳やかす
宋江 読み、口中に説かず、心下に思量す。
「この四句 分明に我が姓名を説く」
又 天書一巻を開き、仔細に観る。三十六将の姓名有り。
智多星の呉加亮 玉麒麟の李進義
青面獣の楊志 混江龍の李海
九紋龍の史進 入雲龍の公孫勝*3
浪里白条の張順 霹靂火の秦明*4
活閻羅の阮小七 立地太歳の阮小五
短命二郎の阮進*5 大刀の関必勝
豹子頭の林沖 黒旋風の李逵
小旋風の柴進*6 金槍手の徐寧
撲天雕の李応 赤髪鬼の劉唐
一撞直の董平 挿翅虎の雷横
美髯公の朱同*7 神行太保の戴宗
賽関索の王雄 病尉遲の孫立*8
小李広の花栄 沒羽箭の張青*9
沒遮攔の穆横 浪子の燕青
花和尚の魯智深 行者の武松*10
鉄鞭の呼延綽 急先鋒の索超
棄命三郎の石秀 火船工の張岑
摸奓雲の杜千 鉄天王晁蓋
宋江 人名を看るに、未だ後に一行の字 写して道ふ有り。
「天書 天罡院の三十六員の猛将に付す。
呼保義の宋江をして帥と為し、
広く忠義を行ひ、奸邪を殄滅せしむ」