晁蓋が生辰綱を奪って梁山泊へ

◆馬県尉が、生辰綱を運ぶ

是の年、宣和二年五月、北京留守たる梁師宝 十萬貫の金珠・珍宝・奇巧の段物もて、県尉の馬安国を差はし、担奔して京師に至らしめ、六月初一日に蔡太師の上寿と為す有り。
其の馬県尉 、五花営の堤上の田地に行到す。路傍を見るに、垂楊掩映、修竹蕭森、未だ片時に歇涼するを免れず。

◆8人から酒を買って倒れる

八個の大漢、酒桶を担ぎ、また堤上に歇涼して靠歇す。
馬県尉 かの漢に問ふ、
「你が酒 売るものや」
かの漢 道ふ、
「我が酒 味は清たり、香は滑辣たり。最も能く暑を解き涼を薦む。官人 試みに置飲するや」

馬県尉 口内は飢渇・痩困たり。両瓶を買ひ、一行をして吃ましむ。未だ酒を吃せざる時、萬事 倶に休す。
酒を吃する時、便ち覚ゆ、眼は花たり頭は暈たり、天を下に、地を上に見る。みな麻倒し、人事を知らず。籠内の金珠・宝貝・段疋らの物、尽く、かの八個の大漢にうばはれ、只だ一対の酒桶のみ撇下す。

◆馬県尉が被害を訴え、花家を捜索する

中夜に至り、馬県尉ら醒む。かの担仗を見ず。只だ見る、酒桶のかの一壁廂に榼するを。未だ免ぜず、隨行人をして酒桶を挑ぎ、南洛県に奔り、知県尹の大諒に見ひ、事因を告説す。
かの知県 司使をして酒桶の誰の人家の動使するやを辨認せしめば、便ち賊蹤を尋覓す可し。酒桶もて験むるに、上面に「酒海花家」の四字有りて分曉たり。

緝事人の王平 五花営の前村に到り、酒旗の上に「酒海花家」なる四字を写すを見る。王平 直ちに酒店に入り、かの姓は花、名は約なるものを拿し、吏の張大年に付して因由を勘問す。
花約 依りて実供し吐到す。

「三日前日の午時分、八個の大漢有り、我が家に来りて酒を吃す。道はく、岳廟の焼香に往くと。我に一対の酒桶を借りんことを問ふ。就ち酒を買ひて、焼香に去けり」

張大年 問ふ、
「かの八個の大漢、你 姓名を認むるや」
花約 道ふ、
「頭たるもの、鄆城県の石碣村に住む、姓は晁、名は蓋、人 號して他を喚びて『鐵天王』と做す。呉加亮・劉唐・秦明・阮進・阮通・阮小七・燕青らを帯領す」*1

張大年 花約をして文字を供指せしめ〈供述内容に拇印を押させ〉、将に知在に召保せんとし、文字を行ひて下鄆城県をして根捉せしむ。

宋江晁蓋をにがす

かの(下鄆城県の)押司たる宋江 文字に接して看て、星夜 走りて石碣村に去き、晁蓋の幾個に報せ、暮夜 逃走せしむ。

宋江 天曉となり、文字の呈押もて、董平を差はし手参の十人を引き、石碣村に至りて根捕せしむ。*2

かの晁蓋の一行の人、星夜 走げ了はんぬ。去向するところを知らず。
董平 晁家の荘もて囲み、荘中に突入す。晁蓋の父親たる晁太公を縛し、管押して解官す。

晁蓋が父親を奪還し、梁山泊

行至すること中途、一個の大漢に遇ふ。身材は迭料たり、遍く体に雕青す。手内に柄潑鏔の鉄大刀を使ひ、「鉄天王」と自称す。*3
晁太公を搶去す。
董平 弓手を領取して県に回る。離れて断吃棒に遭ふを得ず。

かの晁蓋の八個、蔡太師の生日の礼物をうばふ。尋常の小可なる公事なり。楊志ら十二人と邀約し、共に二十個有り、結びて兄弟と為り、前みて太行山の梁山泊に往き、落草して寇と為る。

*1:『宣和遺事』で、晁蓋のなかまとして登場するのは、阮小七。阮小二・阮小五は、阮小七の派生キャラなんだろうか。

*2:張清の前座として、わりと最後のほうに梁山泊に加入する董平は、じつは元から宋江の部下として名前があった。物語の後方に追いやったのは、わりと董平が「とっておき」のキャラだったからだろう。その作者の意図は、今日ではぼやけてしまったような気がするが

*3:鉄刀を使うから、「鉄天王」というシンプルさ。