白話小説を訓読する試み1

水滸伝』第二十三回のはじめ、
宋江と武松が、たまたま出会うところを題材にして、白話小説を擬似的に訓読するためのルールを、つくってみようと思います。試行錯誤の段階です。

どういう判断をしたのか、注釈をこまめに付けて、表示しております。

 
*1宋江 一杯の酒を躱〈さ〉くるにより、去〈ゆ〉きて浄手し*2、廊下に転出するに*3、火柄を跐して、かの*4漢の焦燥を引く。*5

跳び起きて*6、〈かの好漢は〉就〈すなは〉ち宋江を打つたんと欲す*7

柴進 赶〈お〉ひ*8*9、偶々、「宋押司」と叫び、此に因り、姓名を露はす。

かの大漢 是れ宋江なるを聴き*10、地下*11に跪き、いづくに*12肯へて起きんや*13、説くらく*14

「小人 眼有るとも泰山を識らず。一時 兄長を冒瀆す。望むらくは恕罪を乞はん」

宋江 かの漢を扶け起して問ふ*15
「足下 誰ぞ。*16高姓・大名は」

柴進 指して*17道ふ、
「這の人 清河県の人氏なり。姓は武、名は松。排行は第二。今 此*18に在ること一年なり」

宋江道ふ、
「江湖に*19多く『武二郎』の名字を説くと聞く。期せずして今日、却りてここに*20相ひ会す。多幸、多幸」

柴進道ふ、
「偶然、豪傑 相ひ聚まる。実に得難し〈えがたし〉。就ち請ふ、同〈とも〉に一席と做り説話せん」

*1:「話説」は訓読しない。以下同じ。

*2:「了」は訓読しないか、完了の助動詞に置換する。

*3:「来」は訓読しないか、文意に不可欠なときのみ訓読する。

*4:「那」は、訓読しないか、文意に不可欠なときは「かの」と訓読する。

*5:「得」は、補語のときは訓読しない。

*6:原文「跳将起来」であり、幸田露伴は「チョウショウキライし」と読むが、日本語としては意味不明。「将」を補語と見る。「起来」も補語に見えるが、ここは「来」を補語と考えて「起」は動詞に訳す。

*7:原文「欲要」を、幸田露伴は「ほっす」と読む。「要」の一字でも「ほっす」と露伴は読む。ここでは「欲要」「要」も「欲」に置換する。

*8:追いかける、追いつく。急ぐという意味もある。

*9:補語「将出来」が、動詞「赶」に付いているが訓読せず。以下、補語の省略は注記しない。

*10:原文「聴得」は、聴くことができて、という意味にも思われるが、「聴き得て」としなくても意味が通るため、リズムのために訳出しない。

*11:原文「在地下」の「在」は前置詞なので訳出しない。露伴は「地下に在り」とするが、日本語にならない。

*12:原文「那裡」は、「いづく」と、ひらがなに開く。naliに該当する。

*13:駒田訳「立とうとはせず」なので、反語なのだろう。

*14:原文「説道」だが、どちらも「いう」という動詞なので、片方に代表させる。

*15:原文「問道」だが、「問」だけで意味が通るので省く。

*16:原文「是誰」を、露伴は「是れ誰ぞ」とするが、be動詞の「是」は訳出しない。

*17:原文「指著」の「著」は補語なので訳出しない。

*18:原文「此間」だが、「間」は量詞と思われるので省く。日本語にない量詞は訳出しない。

*19:原文「江湖上」だが、「上」は場所を表しているので、日本語の助詞「に」で代用する。

*20:原文「這里」は、「ここ」とひらがな開く。