水滸伝訓読:第98回

◆瓊英の来歴

瓊英の母は宋氏。瓊英の祖父(宋氏の父)が死んだので、瓊英の両親は、喪に駆けつけた。十歳の瓊英は、主管(番頭)の葉清に預けられた。
しかし旅先で、瓊英の両親が死んだ。
のちに田虎が乱を起こすと、国舅の鄔梨は、威勝を占領して略奪し、そこに住む葉清をさらった。葉清とともに、葉清に養われている瓊英もさらわれた。鄔梨は、瓊英の器量に目をつけて、幼女とした。
葉清は、瓊英の身に危険が及ぶことをおそれて、しぶしぶ鄔梨に従って生活している。

◆葉清が、瓊英の母が田虎に殺されたと知る

葉清 後に鄔梨に差はされ、石室山に往き、木石を採取す。部下の軍士 山岡の下に向つて指して道ふ、
「此處に美石あり。白きこと霜雪に賽〈まが〉ひ、一毫の瑕疵も、また有るなし。土人 他を採取せんと欲す。一聲の霹靂に、石を採るもの驚死せられ、半晌にして方〈まさ〉に醒む。此に因りて、人 みな指を嚙みて相ひ戒しむ。敢て近かづかじ」と。

葉清 聽き、軍士とともに岡下に到りて看るに、衆人 聲喊を發し、みな叫ぶ、
「奇怪なり。いまなほ一塊の白石なりしに、いかにして就ち變じて婦人の屍骸〈じつは瓊英の母〉と做るや」
葉清 上前し、仔細に觀看するに、かくのごとく奇怪なり。

原來 主〈雇い主〉の母の宋氏の屍首なり。面貌 なほ生けるが如く、頭面の破損する處、岡より墜ちて撞死するが似〈ごと〉し。
葉清 驚訝し涕泣し、正に理會する處にあらず。

本部内に軍卒あり、他 もとより田虎の手下の馬圉なり。宋氏を擄へて身死するの根因をもって、一一備細に説ふ、
「昔日、大王〈田虎〉初めて起兵するの時節、介休の地方にて、この女子を擄へ、他を壓寨夫人に做さんと欲す。かの女子 大王を哄〈すか〉し、綁縛を放せしめ、行きて此の處に到る。かの女子 身もて高岡より竄下して撞死せらる。大王 他の撞死するを見て、我をして岡を下りて、他の衣服・首飾を剝がしむ。小的〈私が〉他を伏侍して上馬せしめ、又 小的〈私が〉他の衣服を剝ぐ。面貌 仔細に認むれば、千真・萬真に、他なり。今 已に三年有餘、屍骸 如何んぞ兀ほ好好地なるや」

葉清 聽き罷はり、無窮の眼涙を、みな肚裏に落す。便ち軍士に説く、
「我もまた認め得て錯らず。我が舊鄰の宋老の女兒なり」
葉清 軍士をして土を挑〈かか〉げて埋掩せしめ、上前して看るに、舊に仍りて、一塊の白石なり。

衆人 十分に驚訝し嘆息し、自ら去きて、かの採石の事を幹す。事畢はりて、葉清 回りて威勝に到る。田虎 仇申を殺し、宋氏を擄し、宋氏 守節し撞死せる事、〈葉清の妻の〉安氏をして密かに瓊英に伝え知らしむ。

◆瓊英が、田虎を倒すため、張清に投石を習う

瓊英は、母が田虎に殺されたことを知り、復讐を誓った。夢のなかに神人が現れ、張清を連れてきて、武芸を教えさせた。「宿世姻縁」であると。
鄔梨は、瓊英の腕前を喜び、田虎のために役立てようとした。瓊英に婿を取らせ、自分のがわの人間であると確定させたい。しかし瓊英は、「若し匹配せんと欲せば、只だ石を打するを会〈よ〉くするものならん。若し他人を配せんと欲せば、奴家〈私は〉只だ死あらん」といって断る。

◆瓊英が、宋軍と戦う

宋軍が進んできた。葉清は、田虎の部将として、城を守る。
鄔梨は、瓊英も武術が使えるから、出陣させた。葉清は、理由をつけて、瓊英に会いにゆく。
瓊英は、「いまは田虎の軍五千を率いているが、田虎に叛くことができない」と残念がりながら、とりあえず宋軍を迎え撃つ。
矮脚虎の王英は、敵将が女だから、懲りずにまた出てくる。しかし瓊英が王英の左腿を刺した。夫の危機に、扈三娘が駆けつける。
(昔の扈三娘≒今の瓊英、という工夫がある)
王英は、「不止傷足、連頭面也磕破」である。原典では、お約束のために死なないが、もう死んでもいいレベル。

扈三娘のみならず、林冲まで苦戦した。
宋江が困っていると、(田虎からの降将)孫安が、葉清を連れてくる。葉清は、じつは田虎・鄔梨のことを、おもしろく思わないことを告げる。
葉清は、鄔梨が、毒矢に当たって医者を求めていることから、安道全を変装させて、田虎軍に入れることを提案する。張清も偽名「全羽」を名乗って、田虎軍のなかに連れてゆく。
田虎軍のなかで、瓊英は、張清に見覚えがあるような気がする。技を競うと、同じくらい投石がうまいので結婚する。張清こと全羽は、田虎軍のなかで信頼を得て、出世してゆく。

◆メモ

瓊英と張清の話は、完成度が高いため、逆にいじりようがない。面白いから、このまま、やればいいじゃないかと。安道全が、黒幕のような気がする。