吉岡平『水滸伝_伏龍たちの凱歌』

読みました。 4つの話から構成されてます。 ◆第1話 彫師 『水滸伝』に登場するまでの史進の話。 史進は、母から「私の死ぬまでは、刺青はやめてね」と言われていたが、その母が死ぬ。これ幸いと、史進は刺青をしたい。打虎将の李忠に紹介されて、東京府の…

武十回に追加したい2人のキャラ

武十回は、武松のキャラが分裂しているといわれる。 柴田錬三郎の『水滸伝』で、武十回に相当するところを読んだ。 シバレンと原典とをちゃんと比較してないので、あくまで「シバレンを読んだあとの思いつき」として、タイトルのことを書いておきたい。 いま…

梁山泊の初代_王倫は「実在」

宮崎市定によれば、『水滸伝』で、梁山泊の初代首領だった王倫は、史書にみえる人物。京東路に属する虎翼軍という警察を主とする部隊の軍卒。仁宗の1043年、長官を殺害して、年号をたて、官名をあらため、数州を荒らした。 淮南路の高郵軍にせまったとき、知…

「二人の宋江」を融合させる

宮崎市定『水滸伝』の第二章は、「二人の宋江」。 『水滸伝』の宋江は、史料に出所をもつ人物である。盗賊の首領として名前が出てくるし、方臘を討伐した将軍としても名前が出てくる。だから、フィクションである『水滸伝』のなかでも、盗賊から将軍へと変化…

中国歴史小説の「和臭」

日本人が漢文を書くと、母国語話者(というより、母国語筆者)でないため、日本語風に文法をまちがえたり、日本語風の語彙を交ぜてしまったりする。 そういうのを「和臭がする」といって、前近代には、教養ある人々のなかで批判された。近代になったら、どう…

柴進と「二王の後」

宮崎市定『水滸伝・虚構のなかの史実』によれば、柴進が、周の天子の末裔というのは、『水滸伝』の編者がいいだしたことで、「宋江三十六人」、『宣和遺事』には、そういう記述がないと。もともと、名簿に連なっていた柴進が、「柴」姓であることから、連想…

杉本苑子『悲華水滸伝』

杉本苑子『悲華水滸伝』を読んでます。吉川英治の弟子だという、どこかのネットの記事を見て、興味を持ちました。 いちばんの驚きは、始まりが、林冲と柴進の出会いであること。 原典では、第9回にあたる。 それ以前の、たとえば洪信が伏魔之殿をあけるのは…

水滸伝と三国演義の人物比定

『漢末水滸伝』をつくろうと思ったとき、水滸伝の人物と、三国演義の人物をひもづける必要がある。 ただし、全部を一致させるのは、ムリだし、意味がない。 話としては、史書に登場する前の劉備に、『水滸伝』になぞらえた冒険をさせる。 史実とは矛盾しない…

『漢末水滸伝』を書こう

石川英輔『SF水滸伝』を読んでいて思いつきました。 『水滸伝』を翻案するにあたって、北宋の話のまま書くのも、ひとつの手ですが、そればかりが方法ではない。もっと自分なりに、書きたいように書けばいいんじゃないかと。 タイトルは、『漢末水滸伝』。 …

同人誌『水滸伝』の巻構成

◆『水滸伝』赤の巻、『水滸伝』青の巻 『水滸伝』の成立史にさかのぼって物語を解体し、再編成する。 ということを考えています。 たとえていうなら、赤い絵の具と、青い絵の具を、おなじバケツに垂らす。混ぜて完全に紫色になっていれば、それで絵をかけば…

なぜ宋江は招安を受けたのか

◆宋江の招安に関する諸説・諸作品 宋江が招安を受けた(宋朝への実質的な降伏をした)理由について、とりざたされています。 というか、『水滸伝』で、いちばん難解な問題です。これをどう扱うかによって、そのひとの思い描く『水滸伝』がいかなるものか、決…

水滸なのに泳げない好漢たち

梁山泊が、政府を退けて自立できたのは、水塞だからです。 しかし『水滸伝』の好漢の側にも、「泳げない」ひとが、けっこう出てくる気がする。李逵が張順と喧嘩したとき、水没して敗れるのは、印象的な話ですが。張順ほどの(人間ばなれした)習熟者と競わな…

『女子読み「水滸伝」』人物事典

人物事典から、気になった話を抜粋 ◆イケメン ・林冲の外見は原典では張飛に似るが、京劇や翻案小説ではイケメンで定着 ・花栄は将来が有望な軍人なのに、宋江と義兄弟となり、殉死する理由が不明 ・武松の行者はコスプレ、魯智深は正式に得度を受けた ・張…

公孫勝はなぜ非協力的か

◆『水滸伝』編者が便利に使う公孫勝 宮崎市定『水滸伝』によると、公孫勝の物語の成立はおそくて、『水滸伝』がまとめられるときに、『水滸伝』の編者によって加えられたと推測される。 遼を滅ぼすという、荒唐無稽だけど、民族的な自尊心をくすぐる話は、公…

太行山の山賊、梁山泊の水賊

ぼくの『水滸伝』は、宋江を頂点とした梁山泊の水賊と、盧俊義を頂点とした太行山の山賊という、ふたつの集団の対立・融合?を基軸として、思い描いています。 ◆佐竹靖彦『梁山泊』第1章 水滸伝の舞台 梁山泊は、黄河が氾濫してできたときの水たまり。南北…

『北方水滸伝』、8巻で停滞中

◆志のもとに、画一化される好漢たち 『北方水滸伝』は、8巻で立ち止まったままです。いちおう15巻までは、買って手許にあるのだが、ちょっと飽きてきた。なんか、いろんな人物を描くという心意気に相反して、みんな同じ顔つき、みんな同じ性格にしか見え…

武松のキャラ分裂を解決したい

『水滸伝』を、「現代小説」として鑑賞する場合に、ひとりの登場人物のキャラクターに一貫性がないことが、難点とされることがある。 とくにキャラが分裂しているのが、武松だと思う。 ぼくとしては、現行の『水滸伝』に、それほど改変を加えなくても、ひと…

おかしな副将の盧俊義

◆高島俊男氏のいう盧俊義 高島俊男『水滸伝の世界』の単行本(文庫本でない)39ページ~ 盧俊義は副大将なのに、取り柄も魅力もない。『水滸伝』の読者で、盧俊義が好きという人は、まず一人もあるまい。 第六十一回から六十六回に、「盧俊義故事」がある。…

水滸伝に同居する本紀と列伝

◆好漢たちの話の寄せ集め? 水滸伝は、よく、豪傑・好漢たちの物語だといわれる。 はじめのほうだけ読んで挫折する(じつは大半の)読者は、史進・魯智深・林冲……と、主人公がつぎつぎに交替していくところだけしか読まない。だから、『水滸伝』全体のストー…

白話小説を、擬似的に訓読したい

なんとなく、企てていること。 高島俊男『水滸伝と日本人』に、詳しく紹介されていますが、江戸時代には水滸伝を読むため、従来の「訓読」では対応しきれない語彙を解説した、唐話の辞書が作られた。これを受け継ぎ、ぼくは、『水滸伝』や『三国演義』を訓読…

宋江が招安されて節度使となる

◆宋江が梁山泊に入る 宋江 、朱同・雷横を帯領し、李逵・戴宗・李海ら九人を並はせ、直ちに梁山泊上に奔る。かの哥哥たる晁蓋を尋ぬ。梁山泊に到る時分に及び、晁蓋 已に死せり。 又 次人の呉加亮・李進義の両人を以て、落草したる強人の首領と做す。宋江の…

宋江が36人の名簿を授かる

◆晁蓋の手紙を、閻婆惜が預かる 一日、〈晁蓋は〉宋押司の相ひ救ひたる恩義を思念し、密かに劉唐をして帯釵の一対もて、宋江に酬謝す。宋江 金釵に接し、合せず〈不覚にも〉かの娼妓たる閻婆惜に收めしむ。奈んぞ機事の密ならざる。閻婆惜 来歴を知る。 一日…

晁蓋が生辰綱を奪って梁山泊へ

◆馬県尉が、生辰綱を運ぶ 是の年、宣和二年五月、北京留守たる梁師宝 十萬貫の金珠・珍宝・奇巧の段物もて、県尉の馬安国を差はし、担奔して京師に至らしめ、六月初一日に蔡太師の上寿と為す有り。其の馬県尉 、五花営の堤上の田地に行到す。路傍を見るに、…

楊志が花石綱で、孫立を待つ

『宣和遺事』のうち、『水滸伝』に関係ありそうなところを訓読。テキストは 大宋宣和遺事 - 開放文學 からひろっています。 平凡社の中国古典文学全集を参考にしています。 ◆宦官の童貫が、大臣を兼ねる 宣和四年、春正月、梁師成に開府を加ふ。自来、内侍の…

「江湖」というキーワード

岡崎由美『中国武侠小説への道_漂白のヒーロー』の3章に、『水滸伝』の話が出てきます。「江湖」というキーワードから、『水滸伝』が分析されてます。 ◆「江湖」の用例と特徴 中国の書物に古くからある「江湖」は、日本語では「世間」と訳される。長江・洞…

李逵と泰山、晁蓋と宋王朝の関係

大塚秀高「『水滸伝』を読む」(中国の英雄豪傑を読む_あじあブックス)より、気になった話を、言い換えながら抜粋します。 ◆『宣和遺事』 1.汴京の艮岳を飾るため、花石綱を運ぶとき、12人のうちの1人の楊志が、刀を売ろうとして人を殺して、流刑とな…

誰が小衙内を殺したか/李逵の暴力

笠井直美氏の「誰が小衙内を殺したか―『水滸伝』における「宣言としての暴力」の馴致」(『水滸伝』の衝撃』)を読みました。気になったので、書き換えながら抜粋します。笠井氏の論文を、レジュメのようにまとめたものではありません。ぼくがあとで読みやす…

第61~71回 盧俊義がきて百八が揃う

盧俊義列伝(盧俊義の目線)とする。石秀が盧俊義の救出のために、高所から飛び降りるところまで、盧俊義の列伝。石秀が救出に失敗して(第六十三回の冒頭)、宋江が北京の索超・関勝と戦い始めるところからは本紀。 ◆第六十一回 呉用が李逵をともない、北京…

第57~60回 智深の合流・晁蓋の死

本紀と列伝が、派手に合体する、ダイナミックな回。晁蓋が死ぬことで、梁山泊の集団としての性質が転換する。晁蓋は、良くも悪くも純粋な反乱集団だった。しかしトップがいなくなり、いきなり宋江が求心力を発揮するでもなく、迷走する。 ◆第五十七回 梁山泊…

第52~57回 高廉・呼延灼との戦い

梁山泊が祝家荘を滅ぼしたことと、次の第五十一回は、話がちぎれる。ここに置く必然性のない話。 ◆第五十一回 雷横が芸人の白秀英ととめて、白秀英の父を殺す。雷横が捕らわれると、もと同僚の朱仝のもとに拘束される。朱仝は、わざと雷横を逃がす。雷横は、…